女性差別をあぶりだす 韓国社会をヒントに

韓国の合計特殊出生率が2022年は0.78というニュースを目にしました。

出生数は25万人で、日本の比ではありません。

大変な事が起きていると思いました。

先進国は軒並み合計特殊出生率が下がっていますが

韓国は断トツです。

 

『82年生まれ、キム・ジヨン』という小説を読みました。

そこにヒントがありそうです。

 

82年生まれ。ほぼ同年代です。

小説はキム・ジヨンの精神が壊れていく所から始まります。

精神科を訪れ、その主治医が手記(カルテ)のような形で語ります。

そのため主語はすべて「キム・ジヨンは…」となっています。

 

生い立ちを順に追い、その中で受けてきた女性差別を淡々と描写しています。

事前情報として女性差別を扱った作品と知っていたので

「どんなひどい事がかいてあるんだろう?」と思っていました。

しかし、書いてあることはいたって普通の日常なのです。

むしろキム・ジヨンはよい両親に恵まれ、良い環境で育ち、お金にそこまで困ることなくソウルの大学に通います。結婚もして、夫も理解あります。就職も普通にでき、子供もできます。

 

それでも精神が壊れてしまう韓国社会を描いているのがこの作品のすごいところです。

夫婦別姓の法律もあり、0歳から保育は無償。

日本でいう戸籍制度もなくなったようです。

日本よりもむしろ進んでいます。

なのに、出生率がすごいことになっています。

 

子どもを産むと、キャリアがほぼアウトになる構造があるようです。

高学歴になっても子供を産むと最低賃金でのバイトしかなくなる。

 

女性がつらい立場に置かれる原因が社会的要因しかないように書かれています。

そこがこの本のすごい所です。

貧困のせいでもなく、毒親のせいでもなく、無理解の夫のせいでもなく、低学歴のせいでもなく。

社会通念のせいであること。誰も悪意がある人がいません。

伝統と社会通念の犠牲者として女性がいます。

淡々と普通の女の子が通る事実を述べて、行きつくところが精神崩壊。

 

いままで読んだことがないタイプの作品です。

極端ではない事を書くことで、日常に潜む暴力性を浮き上がらせています。

だから、一般男性は気づきません。

自分の言動や行動が女性差別につながっている事を。

男性が読むと反発心を起こさせる副作用があります。

それほど男女の感情をゆさぶる小説だと思います。

フェミニズム小説というジャンルになると思います。

ここで考えさせられたのは

結婚や出産ってあたりまえのことなの?

という、「何言ってんの?」といわれそうな疑問です。

結婚や出産はいいこと、という誰もが疑わない事。

人類はついに、子孫を残すという大義を手放そうとしているかのようです。

 

個人の幸せを追求する事(自己実現)と子孫を残していく事(自己犠牲)は相性が悪いのかもしれません。

今人類が立ち向かっている課題は自己実現と自己犠牲をどうバランスを取るかという事。

介護はだいぶ社会化されました。

次は子育てを社会化しないといけないようです。