自分の親世代の学生時代の価値観を垣間見る 【読書から学ぶ】
「なんとなく、クリスタル」という小説を読みました。
元長野県知事をされていた田中康夫さんが学生時代に書いた作品で、
第17回文藝賞を受賞されています。
作家から知事へ。石原慎太郎さんや猪瀬直樹さんを思い出します。
文学youtuberの「つかっちゃん」が動画内で「村上春樹的な…」と紹介をしていました。
村上春樹的な作品ってどんなんだろう?と興味がわきました。
しらべると当時ミリオンセラーとなったようで、若者への影響も大きかったようです。
1979年に村上春樹さんが「風の歌を聴け」で群像文学新人賞を受賞しています。
「なんとなく、クリスタル」は1980年に文藝賞を受賞しています。
村上春樹さんが特異なわけではなく、時代背景の中で生まれた作品なんじゃないか?と思い手に取ってみました。
1980年のある女子大学生の視点から書かれています。
淡々と、日常を描いています。何か、哲学的な事を言うわけでもなく厭世的でもない。
村上作品と比較すると厭世観は少なく、新しい価値観で生きている若者を、若者目線で書いている。
「これが新時代の生き方だ!」と肩ひじはらず、サラサラとして文体、スピードで書いています。
もしかしたら「肩ひじ張らず」というのが村上作品と共通項かもしれません。
「読み終わったらポイっと投げ捨ててもらってもいいよ」的な感じで軽さを感じます。
当時はご想像通り文学権威や古い文学感を持っていた人達には受け入れられなかったようです。
メッセージ性が特にないという所が「文学はこうあるべきだ」と考えていた人達からは異質なものに移ったのでしょうし、自らを否定された気がしたのかもしれません。
主人公は物質的に恵まれている中で自由な生活を謳歌しています。
周囲の友達(男も女も)も不遇の人はおらずみんなそれなりの生活レベルの人達。
苦労知らずで育った人達がほとんどです。
性に関する描写も多いです。
特定の彼氏彼女(作品中ではステディな関係と描かれています)はいるが、それ以外の異性とも関係を持つ。それが当たり前に描かれています。
「結婚するまでは肉体関係はもってはならん!」という親世代に受けが悪かったのもわかります。
主人公の親たちは戦前の世代。
生活必需品は行わたり、物質的に豊かになった80年代。
次はブランドものの時代となりました。
作品中にこれでもかとブランド名が出てきます。
ブランドの服や装飾をつける事がステイタスであった時代。
自分の親たちの世代が20代だった時にどのように学生時代をすごしていたのか?
価値観はどうだったのか?
垣間見る事ができます。
印象に残っているシーンがあります。
地下鉄の階段からシャネルのワンピースをきれいに着こなす30代女性が上ってきます。
それを見た主人公が
「すてきな奥様。私もああいう30代になりたい。」といいます
そして付き合っているミュージシャンの彼氏と10年後には結婚して彼氏は出世してくれるだろうと想像するシーンです。
30代を見ると、「奥様」と決めつけているところが面白い。
パートナーが出世すると自分が幸せになれるという価値観も面白い。
結婚や出世が幸せであるという価値観は、当時の若者達の中でも常識であったという事が垣間見えました。
古い作品を読む事を楽しいです。
その時代にタイムスリップできるし、当時の価値観を知る事ができます。
それは親世代を理解することにもつながります。
そして時代は変わったなぁと、ひとりごちて満足しています。
「33年後のなんとなく、クリスタル」という作品があるみたいなので次に読んでみようと思います。